施主様の方で、ハウスメーカーとの紛争に際して、AIで通知文書を作成してハウスメーカーに送付したというお話をしばしば伺います。AIは、情報収集能力は凄まじいですが、通知文書の質としては今のところ(令和8年7月当時)イマイチな印象です。
そこで本稿では、ハウスメーカーと交渉する際に、通知文書を作成するときの要点、つまりAI生成文書の何がイマイチなのかを具体的にお話しします。
⑴ 法律実務家が見ているのは「理屈」
弁護士も裁判所も、文書を読むときに関心があるのは「理屈」です。ちゃんと「理屈」が備わっていれば一文触れただけでも高裁で判断が覆るくらい、「理屈」を見ています。元高裁部総括判事の方も、主張書面で書くべきは「いや100パーセント理屈だよ」と仰るくらいです。
そのため通知文書の記載内容で肝心なのは、ある事実が(契約書類の記載、メール・LINEのやり取り、録音などで裏付け)、何の法令に違反したのか(法令、裁判例、文献、国交省のガイドラインなどを引用)、それでどのような損害が生じたか(費目毎に記載する)ということです(以下「肝心なところ」といいます。)。
そうなると、通知文書の記載内容に「重大な」「深刻な」「耐えがたい」といった飾る言葉(修飾語)が連呼されていても余計です。ざっと読み飛ばされます。そういった評価は読み手自身がします。
AI生成の文書は、飾る言葉が連呼されて冗長な印象で、上記の「肝心なところ」が薄いです。その意味でイマイチです。
⑵ 初手が大事であること
通知文書が届いた時のハウスメーカーの対応について想像します。概ね、ⅰ担当者限りで回答するⅱ会社内部の組織で検討して回答するⅲ顧問弁護士に相談して回答する、といった手順に分かれると思われます。目標は、顧問弁護士のところ(ⅲ)まで持っていかせて、そこでも悩ませて「訴訟になったら負ける可能性も否定できない」といった曖昧な回答を引き出すことです。そうなれば、「負けるリスクがある中で訴訟までして時間と労力を費やすくらいなら、早期に和解した方が合理的だ」という方向性で社内の決裁を通すことが期待できます。
そんな中で、通知文書の内容が「理屈」を意識して押さえておらず冗長で不正確で突飛なものであれば、案件が顧問弁護士のところ(ⅲ)まで行ったとしても、顧問弁護士の心境として、おそらくまずはホッとします。「あ~AIが作ったやつで背後に弁護士もいないな」などと安心します。そして、限られた相談時間の中で、通知文書のダメ出しが始まり、「これじゃ請求は通らないよ」といった自信のある回答で終わります。会社担当者はその回答を持ち帰って、「この請求については拒絶する」という方向性で社内の決裁が通ってしまいます。その後、こちらが通知文書を送る度に、担当者が顧問弁護士のところに何度も伺いを立てに行くのかは不確かです。顧問弁護士の方でも、過去に回答した結論について撤回することには心理的抵抗があるはずです。
そのため、ハウスメーカーとの交渉においては、最初の通知文書が大事といえます。
⑶ まとめ
以上から、AI生成の文書に対する当職の感想としては、「AIってこういう背景考えてなさそ、書けば書くほど良いものって勘違いしてそ」などと思っています。
通知文書の方向性としては、ハウスメーカーの顧問弁護士に、理屈を押さえたコンパクトな通知文書をスッと読ませて、そこから悩むことに時間を多く割かせるよう仕向けるのが良いと思います。
少なくともAIには、上記「肝心なところ」について遵守するよう命じておいてください。
